代替医療には、前項で述べたように沢山の種類があります。個々の代替医療は、それぞれの民族や国家、文化的背景から体系化されてきており、理論や施術方法を見るとき、必ずしも似通っているとは言えません。しかし、これら多種多様な代替医療にも、次のような共通する原則があります。
①予防を最善とする医療である
➁自己治癒力を利用する
③全人的医療である
④安全性が第一である
⑤利用者が積極的に関りを持つ医療である
①予防を最善とする医療である
代替医療は、健康増進や病気の予防に利用されることも多くあります。疾病の予防が代替医療の究極の目標です。予防医学では、病気にならないように気を付ける「1次予防」が重視されます。現代西洋医学は病気の診断と治療を主体とした医学であるため、病気の早期発見と早期治療である「2次予防」や、病気の治療やリハビリテーションを行う「3次予防」を得意とします。これに対して、代替医療には健康法なども多く、1次予防が中心となります。もちろん3次予防として、治療やリハビリテーション目的に用いられる代替医療も少なくありません。しかし一般に病気の1次予防には代替医療が適切です。予防医学における現代西洋医学の役割は、その人がどんな病気になりやすいかを個人の遺伝情報などによって診断することであり、代替医療の役割は、その情報に基づいて病気の予防に努めることであると考えられます。
➁自己治癒力を利用する
代替医療の原則の一つは、自己治癒力を利用することにあります。私たちの体は、健康を維持する能力、障害から健康を回復する潜在力を持っています。つまり、適切なきっかけを与えたり、環境を整えたりすれば、私たちの体は自らを治す力を発揮します。もちろん、現代西洋医学でも、代替医療と同様に、自己治癒力が利用されます。医師の役割は、自己治癒力による回復を順調に進めるため、障害を除き治療に向かうように環境を整えることです。代替医療も現代西洋医学もどちらも自己治癒力を大いに利用しているわけですが、現代西洋医学の方は医学によって病気を治しているのだという意識が医療者側に存在するのに対して、代替医療の方は治療過程において裏方に徹しているといえるかもしれません。各種代替医療についての理論の解説や宣伝・広告には、必ずと言っていいほど「自己治癒力(あるいは自然治癒力)を高める」といった表現があるはずです。
③全人的医療である
代替医療は、対象となる人を「全人的」に扱うという特徴があります。一方、現代西洋医学では、その人の全体を見るというよりは、症状や検査データに基づいて原因を特定し、疾患を診断することが重要であり、診断結果に基づいて治療が決定されます。一般に診断が同じであれば、治療薬は同じになります。急性期にある疾患に対しては、このアプローチで十分ですが、生活習慣病や慢性疾患では必ずしも有効でないことがあります。代替医療は、考え方が少し異なります。例えば漢方薬を処方する時、まずその人全体を診て体質を判断し、処方が決まってきます。そのため、同じ症状や病気であっても、人によって処方される薬が異なってきます。ある人が健康であったり、病気になったりするのは、心身の相関、精神や感情、遺伝や環境といった様々な要素によります。代替医療の考え方は、個人の健康状態を決めるこれらの要素の調和を保つことが、健康を維持することになるというものです。代替医療は、れらの要素に介入することによって、健康を維持し、病気を取り扱う「全人的医療」なのです。ところで全人的医療を表す言葉として「ホリスティック医学(医療)」があります。これは1960年代の米国で、現代西洋医学に対する批判として提唱されはじめた概念であり、自己治癒力を重視するという特徴があります。ホリスティック医学では、アーユルヴェーダや中国医学といつた代替医療の考え方も採り入れていますが、ホリスティック医学自体は代替医療ではなく、統合医療に近い考え方です。なおホリスティック(holistic)はギリシア語の「holos(全体)」を語源としています。人間を臓器の集まりによって成り立っていると考える現代西洋医学に対して、ホリスティック医学では、健康や癒しとは、本来身体だけでなく、目に見えない精神・霊性も含めた人間の全体性と深く関係があると考えます。つまり血液検査や尿検査が正常値だから健康であるのではなく、身体と精神や環境が、程よく調和している状態こそが最良の健康だと定義づけられています。自分の健康を病院や医師に委ねるのではなく、積極的に自分の身体や心の状態を知り、自主的に関わることで、病気の治癒や予防が可能となります。
④安全性が第一である
代替医療のもっとも重要な原則として、安全性が挙げられます。健康の増進と病気の予防を、主な目的とする種類の代替医療では、副作用がなく安全であることが求められます。そして医療事故や副作用に関して、これまでの報告から判断すると、代替医療の方が現代西洋医学よりも安全性が高いといえるようです。重症化してしまった病気や難病を扱う現代西洋医学の分野の方で、副作用報告が多いのは仕方のないことかもしれません。また代替医療によるトラブルが全くないわけではありません。
⑤利用者が積極的に関りを持つ医療である
多くの代替医療にみられる特徴として、利用者である私たちが代替医療の実践に積極的に関わっていくという点が挙げられます。例えば、瞑想やヨーガといったリラクゼーションのための治療、栄養補助食品の選択や様々な食事療法といった代替医療は、提供者側からのアドバイスや指導を参考にしつつ、実際に実践し継続するのは、利用者である私たちです。これに対して、現代西洋医学では、診断や検査、治療に至るまで基本的に医師によって行われるため、利用者である患者が主体的に参加する余地は小さいと言えます。
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NPO法人 予防医学・代替医療振興協会