近年、若者の顔つきが変化し、エラの張った顔が少なくなり、顎の小さな三角顔や、面長のうりざね顔が多くなっていると言われています。人類学者や歯科医の中には、これは硬い食べ物を好まず、柔らかい食べ物に偏った食生活の影響だと警告しています。また「早食いで食べ物をよく噛まない」「飲物と一緒に流し込むように食べる」など、噛む習慣が無くなっているケースも見受けられます。この結果、顎が十分に発育せず、歯の生える場所が狭くなり、歯並びが乱れることに繋がります。歯並びが乱れると、見た目が悪いばかりでなく、歯の清掃が不十分になり、ムシ歯や歯周病にかかりやすくなるという悪循環が生まれます。更に最近の研究では、食べ物をよく噛むこと、つまり「咀嚼」が口腔保健の面ばかりでなく全身の健康にも大きな影響を与えることが判明しています。
■ひみこのはがい~ぜ
「ひみこの歯がい~ぜ」とは、日本咀嚼学会が提案している噛むことの効用を、咀嚼回数の多かった弥生時代の卑弥呼にかけて表したものです。卑弥呼の食事は、玄米のおこわや乾燥した木の実、干物など、硬くて噛み応えのある食材で構成されていました。そのため、当時の噛む回数は1食で約4000回とされ、現代人の約6倍と言われています。
よく噛むことは
【ひ】満腹中枢が刺激されて、食べ過ぎ防止になります。
【み】ゆっくり味わうことによって味覚の発達を促します。
【こ】口の周辺筋肉を使うため、発声や表情が豊かになります。
【の】脳細胞の働きを活発化します。
【は】唾液が沢山出ますので、口腔内をきれいにします。
【が】唾液に含まれる酵素には、発ガン物質の発ガン作用を消す働きがあります。
【い】食材を細かくすることで、胃の負担を軽減し、消化酵素の働きが増します。
【ぜ】「ここ一番」の時に歯を噛みしめることで力が湧きます。
■ひとくち30回を目標に!
しっかり噛んで、ゆっくり食べることは、成人の生活習慣病予防や子供の食育に大切です。
「一口30回咀嚼」と、よく噛んで食べるようにと言われていますが、食事のたびに噛む回数を意識しながら食べるのは、なかなか難しいことです。「味わっている感じがしない」など食事を楽しめなくなったり、そばや豆腐のような柔らかい食物を30回も噛むと咀嚼の醍醐味の一つである「のどごし」という食感が失われるなど、食事の楽しみが半減してしまいます。しかし、食事で一番大切なことは「味わって楽しむ」ことです。その前提があった上で「よく噛む」ことも必要になるのです。
上は噛む回数が血糖値に及ぼす影響をグラフにしたものです。ひとくちで30回噛んだ場合は20分後に最高血糖値となり下降を始めますが、ひとくちで7~8回噛んだ場合は、60分経っても血糖値は上昇し続ける結果となりました。噛む習慣で食後高血糖を予防することが可能となります。
では、しっかり噛んでゆっくり食べるにはどうしたらいいでしょうか。以下の3つがポイントとなります。
① ひとくち食べたら箸を置く習慣を…
必然的によく噛むようになり、早食いを防ぐことができます。
② ひとくち30回の咀嚼を目指すために…
「1、2、3、4、…」と数えながら食べるのは味気ないものです。「ありがとうございます」と頭の中で3回唱えながら食べてみては如何でしょうか。10文字×3回で30回の咀嚼を目指すことができます。
③ ひとくちの量を少なくする
下図は、白飯60g(茶碗1/2杯)を一口量を自由摂取(自由)にした場合と、一口量を少なくするように指示した場合(指示)の咀嚼回数と咀嚼時間です。 同じ量の白飯を食べているのですが、咀嚼時間、咀嚼回数ともに「一口量を少なくするよう指示した場合」の方が多くなっていることが分かります。
■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□
NPO法人 予防医学・代替医療振興協会